shobylogy

叩けシンプルの杖

不動産の家賃相場分析はなぜ難しいのか

事業として不動産を獲得する場合、同等の条件の物件の家賃相場を知ることが重要になります。 しかし、この家賃相場を定量的に分析するのは難しく、高い精度で相場を予測することは困難です。

今回は、なぜ不動産の家賃相場分析が難しいのか、その主な理由をご紹介します。

物件がすべて一点物であること、貸し手が決めた価格が用いられること、貸し手の物件獲得価格や利回りが変わること、カタログスペックでは表せない要素が家賃に影響を与えること、などが要因として存在します。

家賃相場の分析がなぜ難しいのか

不動産の賃料には厳密な意味での相場がないためです。 全てが一点ものである不動産では、貸し手が決めた価格で借り手が付けば、それがその物件の相場になります。 そのため貸し手の考え方の違いにより、ほとんど同じ立地、ほとんど同じ設備の物件でも、5〜10%の誤差が当然のように発生します。

次に、価格を決めるにあたっての貸し手の考えに迫ります。

貸し手の賃料の考え方

貸し手である不動産オーナーは、利回りで物事を考えます。 ざっくり言えば、物件の投資額に対して、得られる家賃では、年に何%の収益を上げられるかという考え方です。

物件への投資額が高くなればなるほど、投資として要求する家賃の水準が上がります。 そのため、土地代が高くなる好立地の物件や、建設費が高い物件、減価償却の済んでいない築浅の物件などは、一般的に家賃が高くなります。

概ね上記のような立地、建設費、築年数といった要素が家賃に影響を与えますが、物件の調達額や、求める利回りがオーナーにより変わることが、類似物件の家賃にばらつきが発生する理由の一つになっています。

オーナーの考えは読めませんが、分析において、立地、建設費、築年数は定量化できそうな要素です。 立地、築年数は定量化しやすそうですが、建設費は難しそうです。

では、どういった要素が物件の建設費に影響を与えているのでしょうか。

建設費に影響を与える要素

建設費を詳細に追うのは難しいため、単純化して考えます。 賃貸用物件は建設費により主に3つの種別に分けられます。

  • 賃貸アパート
  • 賃貸マンション
  • 分譲賃貸マンション

賃貸アパート

賃貸アパートは、木造や軽量鉄骨で廉価に作られた賃貸物件です。 構造上高い建物は作れないため、2〜3階建てであることが多く、エレベーターなしの物件はおそらくこの区分です。

壁がコンクリート製ではないため、音が響きやすいというデメリットがありますが、 建設費を安価に抑えることができるため、家賃も安くなります。

賃貸マンション

賃貸マンションは鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートで堅牢に作られた賃貸物件です。 壁がコンクリートでできているため静音性が高く、アパートより需要もありますが、 建設費が嵩むため、アパートよりは家賃も高くなります。

分譲賃貸マンション

分譲賃貸マンションは、いわゆる売買向けの分譲マンションが賃貸に出されたマンションです。 物件を買ったオーナーが事情があって住めなくなり、貸し出されるパターンが多いです。 分譲マンションは内装や設備にこだわっている事も多く、賃貸用と比べると割高になるため、賃料もかなり高くなることが多いです。

また、グレードの高いレジデンスと言われる高級分譲マンションの場合、設備だけでなく床や壁などの建材にも費用がかかっており、建設費が高くなった結果、家賃もハイグレードになることが多いです。

このように、物件の種別により建設費が代わり、家賃帯も変わります。

また、立地、建設費、築年数といった物件をいわばカタログスペックで表せる要素以外で、家賃を下げるような要素が存在し、それらが分析を難しくしています。

カタログスペックで表せない家賃を下げる要素

いわゆる訳あり物件は借り手がなかなかつかないため、家賃が引き下げられることが多いです。

極端な例では、殺人等が発生した心理的瑕疵物件*1では告知義務があるため、借り手が極端に少なくなる結果、家賃が相場よりも割安になります。

また、オーナーや住人に癖があり、騒音やマナーに頻繁に注意する場合などは、入居者が居着かないために家賃が下がる要因になります。

他にも、風通しや日当たりなど、カタログスペックでは表せない部分に問題があるケースも、データには現れないですが家賃が下がるケースが発生します。

では、これらの難点をどのように克服して家賃相場の分析を行えば良いのでしょうか。

家賃相場分析のアプローチ

家賃相場を分析するには、正確な相場推定を諦め、5〜10%の誤差を許容した上で意思決定に用いることが重要だと考えています。

例えば、点で相場賃料を求めるのではなく、レンジで相場家賃帯を求めるような方法や、 不動産経験者の専門家による目視チェックを前提に、相場推定を意思決定の補助に用いるようなアプローチが考えられます。

この辺りは私も現在試行錯誤中ですので、実務に組み込む良い方法があればご教授ください。

まとめ

不動産の家賃相場を定量的に分析するのは難易度が高く困難です。

不動産はすべてが一点物であり、貸し手が決めた価格に借り手が付けばそれが相場になります。 貸し手は物件調達額や求める利回りに対する考えが異なるため、家賃にばらつきが発生します。

物件調達額は立地、建設費、築年数などによって決まり、建設費はグレードの影響を受けます。 また、カタログスペックで表せない要素も家賃に影響を与えます。

このような不動産の世界では、5〜10%の誤差を許容した状態で、相場賃料分析を意思決定に用いることが必要になります。

*1:一般には事故物件とも言われます